小説「仏教のながれ5」その12

 もう、竜の口の刑場で日蓮の頸(くび)が刎(は)ねられるは必然でありました。一行は松明(たいまつ)の炎をたよりに若宮小路へと進みます。現代とは違ってこの時代、月が雲間に隠れると闇は不気味なほどに真っ暗であり、誰も何も言わずに歩いて行った。

「しばし馬を止められよ」突然、日蓮の声が響いた。ぎょっとして一行は立ち止まった。日蓮は馬からひらりと降り立ち歩みを進めます。何事かとみんな息をひそめて見守った。

「日蓮殿、いかがなされた」侍頭が動揺を隠しつつ問いかけた。日蓮は問いには応えず悠然として鶴岡八幡宮の参道鳥居の前に立った。

「いかに八幡大菩薩はまことの神か」日蓮の大音声が響いた。これは、お釈迦様の法華経に説かれた神々への叱責(しっせき)と思われます。法華経に説かれた神々は法華経の行者を守護すると誓って約束しているのです。

 このときの叱責のことは後に日蓮が光日尼に宛てたお手紙に詳しいので一部引用します。鎌倉時代の文ですが現代でも意味を読み取れます。

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