小説「仏教のながれ5」その14

 少し松の根のところで休んでいるところへ、一人の大男の侍が叫びながら駆け込んで来た。一瞬、役人たちに緊張が走り、刀の柄に手をかけた。剛毅(ごうき)な日蓮は微笑みながら立ち上がって役人たちを制した。

「この者は狼藉者(ろうぜきもの)ではありません。金吾殿、よう参られた」

「聖人様、これは何事でございますか」この侍、裸足(はだし)である。

 再び、お手紙から引用します。

「今夜、頸(くび)切られへまかるなり。この数年が間願いつることこれなり。………。今度、頸を法華経に奉って、その功徳を父母に回向せん。そのあまりは弟子檀那等にはぶくべしと申せしこと、これなり」

 日蓮は弟子の金吾に噛んで含めるように励まされ、最後に念を押すように締めくくった。

「日蓮は法華経の行者として頸を切られるのです。笑って日蓮を見送ってくだされ」

 日蓮は再び馬に乗り、この馬の口に四条金吾と後から追いついた金吾の兄弟三人がとりつき、一行は竜の口へ向かって歩き出した。

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