ひとりごと「親になって」

 東京の大田区に鵜の木という多摩川沿いの街がある。長男が三歳のころ多摩川の堤防を兼ねた遊歩道の脇にあるアパートに住んでいた。アパートからすぐの遊歩道に出ると、眼下に広いグランドがあり、その先に多摩川が流れ、さらに向こう岸から川崎の街並みが見える。

 夕方、会社から帰宅してくる私を長男が見つけると、一目散に私に向かって駆け出してくる。私はしゃがんで両手を広げ、勢いよく飛び込んで来る息子を抱き止めた。父親としての幸せの瞬間である。子を思う親心を噛み締めた。

 この時のことを思い出し、父の晩年、母の晩年、もっともっと優しく接すれば良かったと悔やまれるこのごろです。

ひとりごと「初めての本」

 父も母も低学歴で本を読む習慣がなく、家には私の教科書以外に本はなかった。生活するのに精一杯の家計であったと思う。ある日、母は小学生の私のために本を買ってくれた。その本は毎月配布される本で「科学大観」という。毎月届くのが楽しみであった。その本を私は何回も何回も読んだ。それが一年ぐらい続いたと思う。本の代金は母が内職で得たお金から支払われた。その後、中学生になって図書館を知り、高校の時は小説にのめり込んだ。いつか俺も小説を書きたいと希望を持った。優しかった亡き母に感謝!

ひとりごと「特別な日」

 誰でも特別な日というのはあると思う。私は、きょう11月10日がそれです。7歳のときの昼下がり、弟と共に近所の子たちとかくれんぼをして遊んでいた。この日の空は晴れていて暖かく、そとで遊ぶにはいい日であった。そこへ父がやって来て遊びをやめさせ、私と弟を呼び出した。私は父がキャッチボールでもして遊んでくれるのかと思った。が、それは違っていた。用事はすぐ終わって、また、遊びに復帰した。今は亡き父。家が貧乏で父は一生懸命働いていた。あまり遊んでくれなかったからかもしれない。なんでもないような一日が鮮明に記憶に残っている。