小説「仏教のながれ4」その3

 十界の生命の境涯、状態を以下に説明しますが読み飛ばされて結構です。

1.地獄界とは、苦しみに縛られた最低の境涯です。「生きていること自体が苦しい」、「何を見ても不幸に感じる」というような境涯です。

2.餓鬼界とは、欲望が満たされずに苦しむ境涯です。際限のない欲望にふりまわされ、そのために心が自由にならず、苦しみを生じる境涯です。

3.畜生界とは、理性や良心を忘れ、自分が生きるためには他者をも害する弱肉強食の生存競争に終始していく境涯です。

4.修羅界とは、自分と他者を比較し、常に他者に勝とうとする勝他の念を強くもっている境涯です。

5.人界とは、穏やかで平静な生命状態にあり、人間らしさを保っている境涯です。

6.天界とは、努力の結果、欲望が満たされた時に感じる喜びの境涯です。

7.声聞界とは、仏の教えを聞いて部分的な覚りを獲得した境涯です。

8.縁覚界とは、さまざまなものごとを縁として、独力で仏法の部分的な覚りを得た境涯です。

9.菩薩界とは、仏の覚りを得ようとして、不断の努力をする衆生という意味で、自他共の幸福を願うのが菩薩の心で、根本は慈悲の境涯です。

10.仏界とは、仏が体現した尊極の境涯です。

小説「仏教のながれ4」その2

 「一心」とは一つの心という意味です。「十の法界」とは、地獄界(じごくかい)、餓鬼界(がきかい)、畜生界(ちくしょうかい)、修羅界(しゅらかい)、人界(にんかい)、天界(てんかい)、声聞界(しょうもんかい)、縁覚界(えんがくかい)、菩薩界(ぼさつかい)、仏界(ぶっかい)のことです。つまり、一つの心には十の法界を具えており、さらにそれぞれの法界に十の法界を具えているので百の法界になります。これらのことを算数のかけ算の式で表わすと10法界×10法界=100法界となります。そしてそれぞれの法界には三十種の世間(せけん)を具えているので三千種の世間となります。つまり、一瞬の心(一念)に三千種の世間があることになります。このように天台大師は、「魔訶止観」において、一念三千の観念観法を確立しています。

 なお、三十種の世間(10如是×3世間)についてはややこしくなるので説明を省略します。

 十の法界、百の法界についてもう少し説明を加えます。十の法界は十界(じっかい)ともいわれます。十界とは、生命の境涯、状態を十種に分類したもので、仏法の生命観の基本となります。

小説「仏教のながれ4」その1

 ここで、「一念三千(いちねんさんぜん)」について紹介させていただきます。「魔訶止観(まかしかん)」は仏道修行という仏教にとって最も重要な立場から天台大師が法華経を理論的にまとめ解釈したものです。

 「魔訶止観」の現代語訳(「一念三千とは何か」菅野博史著)「一念三千の表明 そもそも一心には十の法界を具(そな)えており、一つの法界にはさらに十の法界を具えており、百の法界となる。一つの法界に三十種の世間を具えているので、百の法界は三千種の世間を具えていることになる。この三千種の世間は一念心(一瞬の心)にある。心がなければそれまでのことであるが、少しでも心があれば、すぐに三千種の世間を具える」と解釈されています。