短編小説「雨の日のお留守番」

 その日は朝から雨であった。僕が5歳の頃のことだったと思う。午後、母が出かけて一人でお留守番。平屋であるので強い雨になると天井から雨の屋根に当たる音がする。玄関の引き違い戸には、それぞれ6枚の硝子が嵌められていて四枚が曇り硝子で上段の二枚が透明硝子となっている。六畳の部屋の反対側が家の裏で同じく引き違いの硝子戸となっている。その上段、透明硝子を透して曇色の空が見える。雨が強いときは空から雨粒が線のように降ってくる。
 一人ぼっちでも寂しくない。だって天井からは屋根を叩いている音が聞こえるし、硝子戸に近付けばピチャピチャと雨だれの音が聞こえる。一定のリズムが音楽鑑賞のように楽しませてくれる。一人遊びでミシンに近付いた。足踏み式のミシンで、僕は足踏みのところに潜り込んだ。足踏み板は前後に動いて安定しないが、そこにすっぽりと身体全体を入れた。閉ざされた空間がなぜか楽しい。小さなテリトリーを確保したような気分である。それからベーゴマやメンコを持ってきて一人悦に入っていた。文字はまだ読めないのでメンコは模様を楽しみ、ベーゴマはデコボコした模様が面白い。
 小一時間ほどして飽きて来た。玄関に行き母が帰って来ないかと耳を澄ます。ピチャンピチャンという一定のリズムが聞こえてくるだけであった。お母さん早く帰って来ないかなあ。そうして母が帰って来た時、この上なく嬉しかった。

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