小説「仏教のながれ2」その9

 空海は病人を前にして村人たちが見守る中、密教法具である金剛盤に金剛杵と金剛鈴を前にして仰々しく得意の祈祷を始めました。村人たちは驚きました。見たこともない祈祷の密教法具を持ち呪文を唱え、時々金剛鈴の澄んだ音が聴こえてくるのです。

 半刻ほどして呪文が終わりました。空海は村人に水を持ってくるよう言いました。そうして、金剛盤に置いた紙包みを取り上げて村人に言いました。「いま、病人の快癒をねんごろにご祈祷申し上げました。ここにあるのは真言密教で用いる秘伝の薬でござる。病人たちに飲ませれば、たちまち病は癒えまするのでご安心くだされ」と言って、一人ひとりに薬を飲ませました。

 そうするとどうでしょう。飲んだところから病人は、意識が戻る者、起き上がる者が二人、三人と続々と出始めました。村人たちは再び驚き「御上人様(おしょうにんさま)」と口々に叫び、手を合わせて空海を拝むのでした。(続く)

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