小説「仏教のながれ2」その13

 そうした歴遊の中、久しぶりに空海は京都を目指しました。空海が琵琶湖のほとり大津において一般聴衆の前で真言密教の説法をしていた時のことでございます。通りかかった若い僧が空海に法論を挑んできました。日本天台宗の最澄がいる比叡山はこの近くにありますので、この僧はここの学僧でありましょう。

「空海上人殿、天台大師によって法華経における一念三千という法門が説かれています。大日経はいかがなものでありましょう」

 この時、空海は「天台宗の若僧め」と思いつつ次のように言い放ったのでございます。

「貴僧の言われることはもっともである。しかしながら、一念三千は大日経の法門であり天台大師はこれを盗んだのである。従って第1が大日経であり、第2が華厳経であり、第3に法華経である。貴僧は一念三千の法門を学んだようであるが良く学びなおされるがよい」(続く)

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