10年以上、毎日同じことの繰り返しで製造会社に勤めていた。本当は毎日同じことの繰り返しではなく、毎日いろいろな事が起きていたのだが小さな職場の中の小さな出来事に埋没していたのだ。
チャンスがあってヨーロッパへ研修旅行に出かけた。初めてジャンボジェット機に乗り、アラスカのアンカレッジ経由でロンドンのヒースロー空港に向かった。ヒースロー空港が近づくとジェット機は徐々に高度を落としてゆく。窓から眼下を見ると緑の中に所々マッチ箱のような家々が見えた。突然、私の頭の中で喜びの衝撃が走った。「これが外国の風景だ。遂に海外へ来たのだ」
ロンドン、パリ、フランクフルト、ローマと4都市を10日間で駆け回った。たったこれだけのことなのに私の世の中を見る目が変わった。俺は今まで日本の一つの会社のそれも職場という狭い世界に生きてきた。日本以外にも外国という世界があり、まさに世界は大きく広がっているということを身をもって体感した。これが転機となって私の新しい人生が始まった。
それから3年後、私は会社を辞め、一年間、妻子を日本に残して西ドイツ(当時)へ留学した。